1_朝の光景

:ヒロキ


ヒロキは、今日も暇なのね。
あいさつ代わりのこんな台詞から二人の一日がはじまる。


午前6時、サクハの部屋にノックもせずに入り、彼女を揺すり起こす。
目を開いた彼女のいつもの台詞にいつものように無言で答え、一歩下がった。
ゆっくりと身体を起こす彼女に、表情はない。

「ヒロ、朝ごはんは」
「キッチンに作ってある。いま、用意する」
「……そう」

一往復の会話を終え、彼女を残しキッチンに向かう。
テーブルに食事が並び終える頃には、彼女も来るはずだ。


食事と洗い物を済ませ、彼女と二人家を出る。
付かず離れずの距離で並ぶ。
手を繋いだことは、ない。

すがすがしい朝の光景。



_2009/11/08 













2_待ち合わせ

:サユ


午前7時、まだ人通りの少ないこの街は朝の静けさに包まれている。
ひんやりと、少し肌寒い。
大げさに身を縮め、隣に座るトモヤを見上げる。

「相方」
「その呼び方はやめろ」
「寒い」
「はいはい」

面倒そうに手を差し出す彼。
それをとりあえず握り、寄りかかる。

「上着を掛けてくれるとか」
「寒い」
「もう」
「あっほら、きたぜ」

彼の視線の先に、並んであるく男女が見える。
待ち合わせの二人だ、約束より30分早い。

「おっはよう、サクハ」
「おはよう、サユ。相変わらず早いのね」

笑顔のサクハにあなたもねと笑顔を返す。
今日も素敵だなぁと思っていると、その横の男が目に入る。

「あ、ヒロキいたの」
「いたさ、悪いか」
「そうね」

不機嫌そうな顔をする彼を見て満足。
すると彼は私の相方に近づく。
二人は、仲が良い。

「トモヤ」
「おう、お疲れヒロキ」

いつもの会話。
なぜヒロキは朝からお疲れ様なんだろう。

「…サク、ヒロキに何かされた?」
「まさか」

即答のサクハに安心する。
ふとヒロキを見ると、複雑そうな顔をしている。
そういう気はあるのね、ざまあみろ。

「お前も大変だな」
「まあ、な」

二人は別に一緒に住んでいるわけではないらしい。
今のところ、サクハの家にヒロキが勝手に上がりこんでいる、イメージ。
直接は聞かない、聞けない。
下手なことを言ってサクに嫌われるのが怖い。

「場所移そうか」
サクハの提案に私も男二人もうなずく。

こんな朝がいつも待ち遠しい。



_2009/11/08 




















3_怒らない人

:サユ


サクハは用事で出かけているらしい。

「めずらしく単体のヒロキに会ってしまったー」
「単体ってなんだよ」
不機嫌そうなヒロキ。
別にいいけど。

とりあえず二人で適当な居酒屋に入る。
「何、飲むの。まだ仕事あるんだけど」
「食事」
「ああそう」

火曜の夜だから人は少ない。

「まだサクのストーカーしてんの」
「やめる予定も理由もない」

する理由はなんだよ、と思うけど聞かない。
基本不干渉、でも興味はあるから。

「嫌がられてないの」
「ないわけないだろ」
「そうね、でも、ヒロキはサクの言いなりね、いつも」

うちへ招待した時、いいと言ったのにサクの指示のまま料理を始めた彼には笑った。

定番のカクテルを注文する。

「飲まないんじゃないのか」
「私はもうオフだから。この色ね、好きなの」
紅く光るグラスを揺らす。
「嫌な色だな」
「そう思うヒロキがこわい」

食事を済ませ店を出る。

「サクハに会いたいな」
「会えばいいじゃねぇか」
「彼女は暇じゃないわ」
「俺のことは予定も聞かずに店連れ込んどいて」
「その言い方やめてよ。それに、あなたとサクは違う」

彼と別れた帰り道。
途中まで送ってもらったのでそんなに距離はない。
怒らないのね。
結構ひどいこと言ったつもりなのに。

こんな彼を怖がる人がいるなんて。




_2009/11/08 















4_自然公園

:トモヤ


深夜の公園は気味が悪い。
こんなところで寝ころぶ俺は傍から見れば不審者に違いない。
まあ、丘の上の自然公園なら、たまたま通りがかるなんて人はいないだろうけど。

ふと気配を感じて見上げると待ちわびた人物。
「何やってるんだ」
言葉通りの表情を浮かべている。

約束の時間までまだ1時間はある。
「早かったな」
そう言うとあきれ顔が返ってきた。
「いつからここに」
「1時間前くらい、ヒロと違って暇なんで」

起き上がって近くの遊具に腰かける。
「悪いな、時間大丈夫か」
「サクハよりは暇だ」
「サクは」
「仕事中」

そうか、とだけ返す。
二人の間のことはあまり首を突っ込むべきでない。
まあ、変なことを聞いてもヒロキなら軽くかわすだろうからそう気にすることもないが。

「お前の相方は」
「あいつは一応”学生”だから」
「ああ、登校日ってやつか」

会話が流れる。
話すのはとりとめのない話、雑談。

「そういえば、サユがサクに会いたがってたな」
「会ったのか、サユと」
「街でばったり。サクはいなかったけどな」
「またあいつは余計な」
「一応遠慮してたから大丈夫だ。学校の効果じゃないか」
「だといいけど」

しばらく話しこむ。

「じゃ、そろそろサクが戻るころだから」
「こっちもサユを迎えに行ってくるわ」

反対方向に分かれる。
ややして振り返るとヒロキもすぐ立ち止まった。
相変わらず鋭い。
すると振り向きながらのヒロが言う。

「仕事もって堂々と会いにこい、って伝えとけ」



_2009/11/08 




















5_パスタ

:ヒロキ


「暇人め」
「せめて目を開けてから言えよ」

早朝5時。
サクハの部屋での会話。
不機嫌そうなサクはいつものことだが今日はテンションが高い日らしい。

「今日はサクが起こせって言ったんだからな」
「そうだったね、ありがとう暇人」
「だから」

言い返そうとすると、サクが立ち上がったので一歩下がる。
「朝食、パスタ、スープ」
「ちゃんと作ってあるから、そのナイフしまえ」
俺が両手をあげて後ずさるとようやく構えを解く。
サクが持つと果物ナイフでも日本刀に見えてくるから恐い。
とりあえず部屋から退散してキッチンで待つ。

「あ、本当に作ってある」
ちょうど盛り付けが終わった頃にやってきたサクが席に着く。
「レモンティー」
「わかったから」
全て用意して自分も席に着く。
一応待っていてくれたらしい。

「今日は何かあるのか」
半分ほど食べてようやく切り出す。
「ちょっと気になることがあって、人がいないうちに調べておきたくてね」
「仕事関係なのか」
「個人的に」

へえ、と言うとサクが嫌そうな顔をする。
仕事関係でないなら、俺もついていくことになるからだ。

朝食を済ませて家を出る支度をする。
嫌な顔をしながらも玄関先で待っている姿を見て笑うと、サクはさらに嫌そうに顔を歪めた。




_2009/11/08 


















メモ(〜5)

“出た人”



“サクハ”
・女

“ヒロキ”
・男
・サクハのストーカーと呼ばれる
・サクハに暇人と呼ばれる

“サユ”
・女
・学生
・サクハに会いたがる

“トモヤ”
・男
・ヒロキと仲が良い
・サユに相方と呼ばれる



_2009/11/11